体外受精における副作用RISK
卵巣刺激で使用するホルモン薬や採卵時の卵胞穿刺など、体外受精の行程ではいくつかの副作用や危険が考えられます。
こうした問題が出ないようKLCでは細心の注意を払って治療を行っています。
万一の場合も適切な対処を行って、患者様の早期回復に努めます。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
最も危険な副作用です。卵巣刺激や排卵誘発剤を使用することによって、卵巣が肥大し、血液中の水分が血管の外へ漏れ出すことで腹水や胸水となり貯留します。血管内の脱水により血液が濃縮され、重症時には血栓症、呼吸困難、腎不全などの病態が引き起こされます。
卵巣刺激の薬や注射への反応は個人個人で異なります。反応が強すぎた場合は過剰な数の卵胞が発育して卵巣過剰刺激症候群になる可能性が高くなります。
OHSSになりやすい方
- 35歳以下
- 痩せている
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 卵胞数 35個以上
- 血中 E2値4,000pg 以上
- HCGによる黄体管理
- 妊娠周期
卵巣過剰刺激症候群の自覚症状
- お腹が張る
- おなかが痛い、腰が痛い
- のどが渇く
- 尿量が減る(1日500ml以下になる)
- 体重が増加する(1日1kg以上増える)
- 息が苦しくなる
卵巣過剰刺激症候群が予測される場合
排卵誘発剤の投与中止、採卵も中止する場合があります。
採卵まで出来た場合でも胚移植は中止し、胚は凍結保存を行います。
予防的に内服薬や坐薬を処方する場合もあります。
卵巣過剰刺激症候群になってしまった場合
症状には軽度~重症まであります。軽度であれば積極的に水分補給していただき自宅安静、場合によっては通院して点滴治療を行います。重症の場合は入院管理が必要となることがあります。安静を保つと共に、血管から漏れ出た水分を血管内に戻して血液濃縮を改善する治療を基本的に行います。点滴を行い水分と塩分の管理をして、アルブミンを投与し、腹水が多量に貯留している場合は腹水穿刺が行われることもあります。
卵巣過剰刺激症候群をおこしながら妊娠した場合は、絨毛組織(のちの胎盤)から分泌されるhCGによって卵巣がさらに大きくなり、重症化することが予測されます。入院が必要となる場合もあります。症状は妊娠14週頃を過ぎると自然におさまってきます。
妊娠しなかった場合は、卵巣は次第に縮小し、月経がくるとかなり改善していきます。
感染
腟内を充分に消毒、洗浄してから採卵を行いますが、腟内の細菌などにより骨盤内に感染を起こすことが稀にあります。その場合、発熱や腹痛といった症状が現れますので、発熱を伴った腹痛がある場合は必ずご連絡ください。特にチョコレート嚢腫や卵管水腫、過去に骨盤腹膜炎を起こしたことがある方は注意して経過観察していきます。
感染予防として採卵後には抗生物質の内服が処方されますので、必ず医師の指示通り内服して ください。必要な方には採卵時に抗生物質の点滴を追加します。
腹腔内出血、腸管損傷
採卵では卵胞を穿刺するため、腹腔内に多少の出血はみられますが、ほとんどの場合、そのまま自然に吸収されて無くなっていきます。超音波下で慎重に穿刺しますが、血管の損傷などがあると出血量が増え、重症例では輸血が必要になったり、開腹手術が必要となる可能性もあります。
また、子宮の前方には膀胱、後方には腸管があり、卵巣はこれらにはさまれて存在しています。
安全には十分配慮していますが、腸管などを損傷してしまう可能性があります。ごくわずかですが、危険性があることを留意しておいてください。
膀胱出血(血尿)
卵巣が通常の位置にはなく、膀胱を通過して卵胞を穿刺しなければならなかった場合や針先が膀胱をかすめてしまう場合に起こることがあります。多くは一過性の出血で、採卵後の点滴を 追加することで血尿等はすぐに治まります。
しかし、採卵翌日まで血尿が続く場合、尿が出にくくなったと感じたときは、すぐにご連絡の上受診してください
アレルギー反応
使用する薬剤(内服、注射、点滴、麻酔薬など)によりアレルギーを起こすことがあります。
かゆみ、発疹、息苦しさ、など、薬剤使用後に症状が出た場合は必ず医師、看護師にお知らせください。
採卵中は血圧計などのモニターで管理をしていきます。過去に薬剤でアレルギーを起こしたことのある方は必ずお申し出ください。
局所の発赤・腫脹
注射部位が赤くなったり、腫れたりすることがあります。これらは一時的な症状で、徐々にひいてきますので様子をみてください。
熱感があり、冷やすと楽になるようであれば冷やしいてただいて構いません。
特定の薬剤でひどく腫れる方は、アレルギー反応の場合もありますので、気になる方は医師・看護師にご相談ください。
採血(点滴)に伴う神経損傷
採血後に手指へ拡がる痛み、しびれなどが生じ、一定時間が経過した後も持続します。
約1万~10万回の採血に1回の頻度で起こるとされています。皮膚表面近くの神経は個人差が大きいため、神経損傷を100%防止することはできませんが、通常の採血や点滴では太い神経の断裂などの可能性は低く、損傷は軽度で症状は一時的な場合がほとんどです。
いつもと違う激痛やしびれを感じた場合は、感じた時点でスタッフに伝えてください。
多胎妊娠
多胎妊娠は単胎妊娠に比べ母子共にリスクが高い妊娠です。
特に早産となる割合が非常に高くなります。子宮内胎児発育遅延の割合も高く、それらに伴い低出生体重児、未熟児となる割合も高くなります。未熟児で生まれた場合は新生児集中治療室(N ICU)での治療が長期にわたり必要となり、視力低下、発達障害などの未熟性による後遺症が 残る場合があります。また、脳性麻痺や子宮内胎児死亡も増加します。
一方、母体への影響としては、切迫早産、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、前期破水が起こりやすくなります。切迫早産のため出産まで安静入院が必要になる場合があります。分娩は帝王切開となる場合が多く、分娩時、分娩後に大量出血が起こることもあります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
受精卵(胚)が子宮内膜以外の場に着床してしまう妊娠のことです。
子宮内に胚を移植しますが、移植した胚が卵管に移動することがあります。正常な卵管であれば 移動した胚は子宮内に戻されるのですが、卵管の中で動けなくなりその場で着床すると子宮外妊 娠となってしまいます。
子宮外妊娠は、卵管の手術を受けたことがある方、子宮外妊娠の既往がある方、卵管の閉塞や癒着がみられる方、卵管水腫がある方に発生しやすい傾向があります。妊娠は継続しているものの子宮内に胎嚢がみられない場合は、単に化学的妊娠であったのか、子宮外妊娠の可能性があるの か、注意深く経過観察していきます。発見が遅れると重症化し、命にかかわることもあります。子宮外妊娠で手術が必要な場合、当院では手術が行えないため、手術をしてくれる病院へ紹介となります。当院における子宮外妊娠率は1%未満です。
胚移植後、妊娠判定日頃から出血があり、「生理になった」と思っても子宮外妊娠の可能性もありますので、判定日には必ず受診してください。
深部静脈血栓症
経口ホルモン剤など体外受精で使用するホルモン剤(内服、貼り薬、腟坐薬)には血液が固まりやすくなる副作用があり、血栓ができるリスクが高まります。特に血栓のリスクが高まるのが、40歳以上、肥満、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、妊娠です。血栓症の既往がある方は必ずお申し出ください。
ホルモン剤使用中はこまめに水分補給していただき、長時間の同一姿勢は避けて、定期的に足を動かしたり、ストレッチやマッサージをするなど血液の流れをよくするように心がけてください。
特に飛行機や電車、車での長時間の移動の際にはお気をつけください。
足の痛みや赤み、腫れ(特に左右差がある場合は注意です)、突然の胸痛、息苦しさ、頭痛、目 のかすみが出現した場合はお申し出ください。頻度は少ないですが、注意が必要です。きわめて稀ですが、深部静脈血栓症から心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞など生命に関わり重篤な合併症を生じる可能性があります。このような場合には、必要な救命措置を適宜行い、治療を行うことができる病院へ転院させていただきます。
血管迷走神経反応
心理的に緊張、不安が強いと起こりやすいとされています。
神経が興奮し、急激に血圧が下がるため、めまい、気分不快感、意識消失等を引き起こします。